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Jリーグ 6年前

久保建英に降りた“神様”。「急がば回れ」はいらない。自らの成長へ下した決断とプロの決意

text by 藤江直人 photo by Getty Images

なぜ、FC東京では出場機会を得られなかったのか?

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アンジェ・ポステコグルー監督のもとへ走り寄った【写真:Getty Images】

 相手ゴール前のほぼ正面で、時間と空間を自在に使える状況が図らずも生まれた。必然的にさまざまな発想が久保の脳裏に浮かんでくる。そのなかでベストのチョイスが、おそらくはボールをあえて意図的に、それもちょっとだけ浮かせたトラップだったのだろう。

「最初は味方へパスを出すのかな、と思ったんですけど」

 松原は久保がトラップした瞬間をこう振り返る。大崎が間合いを詰めてきたことで伊藤がフリーになっていたし、右後方からは喜田が猛烈なスプリントを駆けて久保を追い抜いていく。どちらも選択しなかった久保の決断を目の当たりにして、松原の脳裏には閃くものがあった。

「シュートが非常に上手い点を、タケはストロングポイントだと思っているので。ボールを止めてから蹴るまでの、質の高さが出た場面だったと思います」

 FC東京時代から数えて、J1でプレーすること147分目にしてようやく突き刺した初ゴールを見届けた久保は、ゴール裏を埋めたサポーター席へ行こうとした矢先に急旋回。ベンチ前で喜んでいたアンジェ・ポステコグルー監督のもとへ走り寄り、笑顔を弾けさせながら胸のなかへ飛び込んでいった。

「ゴールを決めたら監督のところへ行こうと決めていたので。こういう難しい時期に、全然試合に絡んでいなかった自分を快く受け入れてくれた監督に、感謝している気持ちを表したくて」

 FC東京からの期限付き移籍が電撃的に発表された今月16日の時点で、今シーズンのJ1で久保はすべて途中出場で4試合、わずか58分間のプレーにとどまっていた。最後にプレーしたのは4月14日のセレッソ大阪戦。5月に入ると、ベンチ入りメンバーのなかにも名前を連ねなくなった。

 今シーズンからFC東京を率いる長谷川健太監督は、攻撃陣にも労を厭わないハードワークと攻守の素早い切り替え、そして泥臭い守備を要求した。東慶悟や大森晃太郎らとサイドハーフのポジションを争った久保は、オフ・ザ・ボールの部分で指揮官が設定するレベルに達していなかった。

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