フットボールチャンネル

Jリーグ 4年前

「これからの川崎フロンターレ」を担う三笘薫と旗手怜央。小林悠の期待と鬼木達監督の評価【この男、Jリーグにあり/後編】

明治安田生命J1リーグ第1節・川崎フロンターレ対サガン鳥栖が2月22日に行われ、0-0のドローに終わった。この試合の65分に、三笘薫と旗手怜央が同時にピッチに立った。2人の大卒ルーキーを、鬼木達監督と昨年までキャプテンを務めた小林悠はどのように見ていたのだろうか。(取材・文:藤江直人)

シリーズ:この男、Jリーグにあり text by 藤江直人 photo by Getty Images

小林悠の期待

0304KobayashiYu_getty
【写真:Getty Images】

【前編はこちら】

 旗手はアディショナルタイムの92分にも、ビッグチャンスを迎えている。左サイドからMF脇坂泰人が送ったクロスに、途中出場の小林がヘディングを一閃。サガンのGK高丘陽平がファインセーブしたこぼれ球をダイレクトで狙ったが、右足から放たれた一撃はゴール右に外れてしまった。このとき、これからだぞと励ますかのように、旗手の背中をポンと叩いたのが小林だった。

【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


「生き生きとプレーしていた彼らは、これからフロンターレの力になってくれる」

 さかのぼること78分には、右サイドを抜け出したDF山根視来が中央へ折り返す。ノーマークの状態で待ち構えていた旗手だったが、焦ったのか、コントロールが乱れてシュートすら打てなかった。ほろ苦い開幕戦となったが、だからといって下を向くことはなかった。

「(プロの壁の高さは)わかっていたというか、想像していたこと。だからこそ、まだまだ力がないとわかっても自分は落ち込まないし、むしろ改善していこうという思いしかない。シュート練習は全体練習を終えた後に毎日やっているけど、それでも決められないのは自分に力がないから。もっと、もっと練習を積み重ねていきたい」

 子どものころから夢見てきたプロになった今シーズン。ミッドフィールダー登録の三笘は「18」を、北海道コンサドーレ札幌との昨シーズン最終節の85分から三笘よりも先にJ1デビューを果たしていた、フォワード登録の旗手は「30」をそれぞれ背負っている。今シーズンから取り組んでいる[4-3-3]システムのもと、開幕戦で三笘は左、旗手は右のウイングに配置された。

三笘と旗手が口を揃えて語った言葉

「(デビューに)特別な思いを抱いてピッチに入ったわけではないですけど、ここから自分のプロサッカー人生が始まりますし、Jリーグで活躍することが自分の夢の可能性を大きく広げていくはずなので。その意味ではもっと、もっとやらなきゃいけない」

 左タッチライン際に張ってパスを呼び込み、縦へ、そして中央へ鋭いドリブル突破を何度も仕掛けたデビュー戦を三笘はこう振り返った。75分にはカウンターからペナルティーエリア内へ侵入し、追いすがってきたDF宮大樹と交錯して倒れるも、木村博之主審は笛を吹かなかった。

「相手ゴールへ向かうプレーはできましたけど、最後にシュートにもっていくプレーはできていない。サイドをえぐってもクロスまでもっていけていないし、そういった点にこだわっていかないと仕掛ける意味もなくなってしまう。だからこそ、まだまだだと思っています」

 繊細なボールタッチを含めた巧さは随所で披露されたが、肝心の相手ペナルティーエリア内で怖さを与えられなかった点を三笘は反省する。対照的に不慣れなウイングというポジションで、途中出場ながらチーム最多タイの3本のシュートを放ち、ゴールの匂いを放った旗手も貪欲に前を見つめる。

「(ウイングに関しては)最初はすごく手こずりましたけど、プレーしていくうちに自分のよさも出せるようになってきた。ただ、相手がペナルティーエリア内に人数をかけてきたときは、遠目からのシュートも有効になるので、その意味ではまだまだシュートが少なかったと思う」

フロンターレが踏み出す新たな一歩

 2007-09シーズンのアントラーズに続く、史上2チーム目のリーグ戦3連覇を目指した昨シーズン。負け数こそ「6」でリーグ最少だったフロンターレは、同じく2番目に多かった「12」を数えた引き分けが大きく響いて4位に終わり、今シーズンのACLの出場権すら得られなかった。

 ボールを「止める、蹴る、人が動く」を繰り返す、連覇を支えた独自のポゼッションスタイルが研究されて久しい。自陣のペナルティーエリア内に人数を配置し、ボールは回されても最後のパスは入れさせない、決定的なシュートも打たせない、という戦法の前に攻めあぐねたのが昨シーズンだった。

 連覇を支えたMF阿部浩之(現名古屋グランパス)、DF奈良竜樹(現アントラーズ)が今シーズンから新天地を求め、大黒柱のMF中村憲剛は昨年11月の左ひざの前十字じん帯損傷の大ケガから復活を期す過程にある。だからこそ、フロンターレも新たな一歩を踏み出して変わらなければいけない。

 従来の[4-2-3-1]を[4-3-3]に変えたのも進化を期す一環であり、逆三角形に変わった中盤はアンカーにU-18から昇格して4年目の田中碧、大島僚太と組むインサイドハーフに阪南大学から加入して3年目の脇坂を配置。湘南ベルマーレから移籍した山根も、右サイドバックを射止めた。

「ゴール前までいける推進力」

 フロンターレに新たな力を脈打たせる、連覇に直接関わっていない新戦力のなかにもちろん三笘と旗手も含まれる。新戦力の台頭が既存の戦力との間に競争意識を生み出させ、新陳代謝を促進させてチームを進化させる。サガン戦で最初の選手交代として、2人を同時に投入した鬼木監督は言う。

「多少相手の時間になっていたこともあったので、自分たちのどこでパワーを出せるかという狙いのなかで、相手のゴール前まで一気にいける推進力とパワーをもっている彼らを入れた。後半の最後の方で少し盛り返すことができたし、そうした点を今後につなげていければと思う」

 ウイングとして挑む場合、三笘の前には長谷川だけでなく齋藤学が、旗手の前には2018シーズンのJリーグMVP家長が立ちはだかる。いずれ中村が復帰してくるインサイドハーフの選手層も厚い。チャンスメークだけでなく点取り屋としても機能すると自負する旗手だが、後者の場合は現状で先発を託されているレアンドロ・ダミアンと、得点王経験者のベテラン小林が控えている。

 新システムを熟成させながら戦っていく今シーズンの青写真が、拡大の一途をたどる新型コロナウイルスの影響下で、第2節以降の3節分が延期された緊急措置とともに急変した。インパクトを残したルーキーコンビが序列をあげ、開幕戦で吹かせた新たな風をさらに強められる時間が生まれたととらえれば、リーグ戦が再開された後のフロンターレは大きく変わっているかもしれない。

(取材・文:藤江直人)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top