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Jリーグ 4年前

セレッソ大阪、MF奥埜博亮はなぜFWで起用されるのか? 変化するストライカーの役割【西部謙司のJリーグピンポイントクロス】

セレッソ大阪でプレーする奥埜博亮は、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の下ではFWで起用されることが多い。元々は中盤を本職とする奥埜はなぜ最前線でプレーするのか。時代とともに変化するFWの役割を考える。(文:西部謙司)

シリーズ:西部謙司のJリーグピンポイントクロス text by 西部謙司 photo by Getty Images

本職を差し置いてFWで起用される奥埜博亮

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【写真:Getty Images】

 かれこれ20年ぐらい前のことだが、木村和司さんが言っていた言葉を思い出した。

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「そのうちパスが上手い選手はDFになって、そこで組み立てるようになるんだろうね。逆にFWは守備ができる選手じゃないと務まらんようになる」

 現在、完全にそうなっているわけではないが、そういう傾向は出てきている。リバプールでFWにボールを供給するのはMFよりもCBのフィルジル・ファン・ダイクだ。FWが守備をするのも当たり前、かつて8人だった守備ブロックは10人になっている。

 ポジションに要求されるプレーは変化し、スペシャリストとマルチプレーヤーの境目が見えなくなってきた。セレッソ大阪の奥埜博亮は、そうした時代の要請に応じたプレーヤーの1人といえそうだ。

 もともとMFのはずで、今季もときどきボランチとしてプレーしているが、メインのポジションはFWだ。昨季、2トップの一角として起用されたときは、その意図がよくわからなかった。C大阪にはFWがけっこういる。柿谷曜一朗、ブルーノ・メンデス、高木俊幸、都倉賢、鈴木孝司。西川潤もすでに登録されていた。

 本職FWを差し置いて、なぜ奥埜なのか。確かに結果は出ている。7ゴールは水沼宏太と並ぶチーム最多得点だった。決定力の高さを見せている。今季もすでに7ゴールで、チーム最多得点者だ。

 ただ、得点力だけが奥埜をFWで起用した理由ではないと思う。目を引くのは行動範囲の広さだ。

 2トップとしての守備だけでなく、サイドハーフやボランチが攻撃に出てすぐに戻れないときは、たいてい奥埜が一時的に引いてポジションを埋めている。もともとMFなので違和感もなく、そのままずっとプレーすることもできるだろう。得点だけでなく、守備面での貢献度が高いのだ。自陣から丁寧につないでいくビルドアップでも、精力的に中間ポジションに入って縦パスを引き出す。カバーエリアの広さが抜群のFWとなっている。

ハードワーク型ストライカー

 2014年ブラジルワールドカップで準優勝だったアルゼンチン代表は、リオネル・メッシとゴンサロ・イグアインの2トップだった。

 トップはイグアインでセカンドトップ(トップ下)にメッシという分担だったが、守備のときはメッシより前にいるイグアインが、メッシを追い越すように自陣方向へ戻って守備をしていた。攻撃でスペシャルな能力を持つメッシを守備で消耗させないための配慮なのだろうが、イグアインの献身性は意外だった。

 ストライカーはスペシャリストのポジションだ。身体的には瞬発系なので運動量は多くないタイプが普通である。ただ、イグアインはMFでプレーした時期もあり、広い範囲をカバーするのはさほど苦ではなかったのかもしれない。

 かつて、2トップは前線に居残っていればよかった。やがて1人は守備ブロックに組み入れられ、現在は2人ともそうなった。メッシのように1人を守備面免除にするなら、もう1人は2人分働かなければならない。もちろん攻撃でもゴール前へ出ていくので、そうなると運動量はボランチよりも多くなって不思議ではない。つまり、FWはスペシャリストというよりハードワーカーのポジションに、すでに変わっている場合もあるわけだ。

 ハードワーク型FWとして、奥埜のパフォーマンスは満点といっていい。広範囲に動いて攻守に味方を助け、なおかつリーディングスコアラーなのだ。

 奥埜には、例えば柏レイソルのオルンガのような存在感はない。むしろステルス的に潜んでいる。あちこちに顔を出して味方を連結し、知らぬ間にゴール前にいて得点する。技術的には万能でパスもシュートも上手い、ドリブルもできる。どれもスペシャルではないが、もとがボランチなので何でもできる。

 ブラジルのパウリーニョ、チリのアルトゥーロ・ビダルは、ボランチとしてハードワークしながら得点力の高いタイプとして知られているが、奥埜はこれの逆バージョンといえる。FWのスペシャリストを差し置いて、ゼネラリストの奥埜を起用したのは、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督の慧眼というほかない。

(文:西部謙司)

【了】

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