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Jリーグ 11か月前

鹿島アントラーズの「潜り込む」勝ち方とは? 名古屋グランパスを追い込んだ策略【Jの十字架】

シリーズ:Jの十字架 text by 庄司悟

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不調から脱した鹿島アントラーズは、5連勝で5位に浮上している。連載「Jの十字架」では、明治安田生命J1リーグ第13節から国立競技場で開催された鹿島対名古屋グランパスをピックアップ。堅守を誇る名古屋を鹿島はどのように攻略したのか。“異端のアナリスト”庄司悟氏が「十字架」を用いて解剖する。(文:庄司悟)



鹿島アントラーズの策略


【図1:2023年J1第12節までの十字架(縦軸=パス成功数×横軸=ボール支配率)】

 密かに注目していた鹿島アントラーズと名古屋グランパスのJリーグ30周年記念マッチは、鹿島の土俵と化した。本題に入る前に、J1第12節までの十字架(縦軸=パス成功数×横軸=ボール支配率、図1)を見てもらいたい。第9~12節までの鹿島の4連勝の相手は、いずれも鹿島より右上にいたチームだったことがわかる。

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 逆に、第13節の相手・名古屋は図1の位置からもわかるように、パス成功数、ボール支配率へのこだわりは鹿島以上にない。焦点はどちらのチームが右上に行くのか、であった。

 鹿島の岩政大樹監督が講じた策は、名古屋を「右上の土俵に追いやる」というものだった。鹿島はハイプレスをやめ、ほぼマンマークに近い形で名古屋のパスの受け手を抑え、縦パスを横パス、バックパスにさせ、パス成功数359本、ボール支配率57%の数字を“出させた”。名古屋の第12節までの平均が、同270本、同43.4%だったことを考えると、岩政監督にしてみればまさにしてやったりだろう。


【図2:2023年J1第13節のみの十字架(縦軸=パス成功数×横軸=ボール支配率)】

 第13節のみの十字架(縦軸=パス成功数×横軸=ボール支配率、図2)を見ても、鹿島が名古屋の左下にまんまと潜り込んだことがわかる。相撲で例えるなら、小兵力士で名を馳せる石浦、照強、炎鵬、宇良の取り口のようでもある。

 ボールを持つチーム(右上)にボールを持たせて、ボールを持たないチーム(左上)にボールを持たせる――。ゴール裏の鹿島サポーターが抗議していた国立開催であろうと、カシマ開催であろうと、今シーズンの鹿島は、宇良の居反り(上からのしかかってきた相手の懐に潜り込み、両手で相手の両膝裏を取って持ち上げ、自らの後ろに反り投げる技)のように「下に潜り込む」形でもはや決まったと言ってもいいかもしれない。

(文:庄司悟)

庄司悟(しょうじ・さとる)

1952年1月20日生まれ、東京都出身。1974年の西ドイツ・ワールドカップを現地で観戦し1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現『Sportec Solutions』。ブンデスリーガの公式データ、VARを担当)と提携し、ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSをもとに分析活動を開始。著書に『サッカーは「システム」では勝てない データがもたらす新戦略時代』(ベスト新書)、『現代フットボールの主旋律 ピッチ上のカオスを「一枚の絵」で表す』(カンゼン)。

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