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Jリーグ 10か月前

横浜F・マリノスがはまった「アリ地獄のような罠」。町田ゼルビアが講じた周到な策とは【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

主力を外しても力が落ちなかった理由



「マリノスの先発メンバーも、予想していた顔ぶれとほぼ同じでした。なので、自分たちからすれば練習してきた通りの戦い方で、うまくはめられたのかなと思っています」

 平河の言葉からも、金星を手繰り寄せた緻密なスカウティングと、それに基づいた完璧なゲームシミュレーションが垣間見える。黒田監督も「相手もメンバーが変わり、多少はクオリティーが落ちるだろう、という点も計算に入れながら練習をしてきました」と試合後に振り返っている。

 対する町田も、マリノス戦の先発メンバーでレギュラーを担ってきたのは、累積警告による出場停止で9日の東京ヴェルディ戦を欠場していたデュークだけ。リーグトップタイの14ゴールをあげているFWエリキを含めて、J2の独走を支えてきた主力のほとんどがベンチ外となった。

 黒田監督は先発メンバーをある程度固定してリーグ戦を戦ってきた。必然的に出場時間が限られる選手や、リザーブにすら入れない選手も出てくる。それでもリーグ戦の出場が4試合にとどまり、マリノス戦ではベンチ外だった35歳のベテラン、DF太田宏介はこう語ったことがある。

「それでも、いい意味での競争が常にあって、黒田監督だけでなくヘッドコーチの金明輝さんを含めて、フェアに選手たちを見てくれる。なので、チーム内の雰囲気はすごくいいですよ」

 マリノス戦はある意味で、高校サッカーの指導者から転じた黒田監督によるチームへのアプローチが、内容と結果の両方で問われる一戦でもあった。だからこそ、なかなか試合に絡めない選手や、怪我明けの深津や池田、宇野が躍動した末に手にした快勝が指揮官の表情を綻ばせる。

「キャンプからJ1のチームと6戦ほど練習試合を行い、かなりの成果を収めてきたのをひとつの拠りどころとしながら、あのときから積み上げてきたものをしっかり出せれば絶対に負けないと、自信を持って選手たちを臨ませました。試合にあまり出ていない選手や、リハビリで長く苦しい思いをしてきた選手たちの思いが今日のゲームに乗り移り、成果として出たという印象ですね」

 思わず目を細めた選手の一人に、青森山田高時代の愛弟子だった19歳の宇野もいる。3月に右足第5中足骨を疲労骨折。リハビリの過程でさらに2度骨折し、手術を含めて復帰が大幅に遅れたボランチが、武器である球際の激しさとハードワークを取り戻した姿にはこう言及している。

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