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Jリーグ 4週間前

「本当に厳しい言葉を…」FC町田ゼルビア、昌子源の「声」がもたらす刺激。偉大な“2人の主将”に追いつくために【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Getty Images

「真っ先にイメージしたのが偉大な先輩2人」

FC町田ゼルビアの昌子源
【写真:Getty Images】



「三笘(薫=ブライトン)の1ミリ」ならぬ、「望月の1ミリ」で大仕事を見せた望月は、192cmの長身で爆発的なスピードと跳躍力を備えた若手。しかしながら、メンタル的に少し優しすぎるところが課題と言われる。それを昌子は近くで見て感じ、練習からあえて厳しい言葉で鼓舞したようだ。

「あいつは返事1つで『ええやつやん』ってすぐ分かる(笑)。だけど、あえて根性叩き直そうと思って、常日頃から本当に厳しい言葉をかけてます。それでもめげずにやっている。これでまた一層、伸びると思います」とキャプテンも太鼓判を押した。

 こうやってチーム内でいい刺激を与え合えるところも、今季の町田の強さの秘訣なのかもしれない。

 前半を2−1で折り返し、迎えた後半。FC東京は攻撃のギアを上げ、巻き返しを図ってきた。町田はシュートチャンスを作れず、防戦一方の状況を強いられたが、リーダー・昌子を中心に次々と跳ね返し、ゴールを割らせなかった。いったん自陣に引いて守ると決めた時の守備ブロックの固さは折り紙付き。それを45分間継続し、タイムアップの笛。町田は平河悠や藤尾翔太、柴戸海といった主力級不在の中、大きな1勝を挙げ、首位に返り咲くことに成功したのだ。

 黒田監督は「『連敗だけは絶対にしない』を合言葉にしている」と強調したが、それはチーム全体に確実に浸透している。昌子も「連敗したらすぐ真ん中に下がるし、あっという間に2ケタ順位、降格圏に行く。崖から転がったら止まらないって試合後のミーティングでも監督が言っていた。そういう危機感は全員が持っています」と神妙な面持ちで語っていた。

 下から這い上がってきたチームだからこそ、下に落ちる怖さを知っている。そこはJ1が当たり前のチームにはないマインドだ。鹿島アントラーズやガンバ大阪で長くプレーした昌子も原点回帰を図るうえで最高の環境と言っていい。今は鹿島で貪欲にレギュラーを取りに行っていた若き日を思い出しながら、チャレンジャー精神を強く押し出せているようだ。

 だからこそ、当時のキャプテンだった小笠原満男(鹿島アカデミー・アドバイザー)や日本代表入りした頃の主将・長谷部誠(フランクフルト)の一挙手一投足がつねに頭に浮かぶのだろう。

「今年初めにキャプテンに就任した時に真っ先にイメージしたのが偉大な先輩2人。彼らには絶対になれないけど、いいところは極力真似したい。特に長谷部さんはつねに高水準でプレーできるし、波がない。サッカー選手ってそれが案外、一番難しいと思います。ピッチコンディションとか嫌な相手、パワー系とかスピード系の相手とかで変わってくるけど、ずっと安定してる。それを40歳までやってるわけだから、ホントに凄いですよ」

 31歳の昌子も長谷部の領域を目指したいところ。FC東京戦の今季J1初先発と勝利、首位奪還は大きな布石になったのではないか。今後、チャン・ミンギュらとの競争も熾烈になるだろうが、ここからが本当の戦いだ。昨季鹿島で試合に出られなかった不完全燃焼感を払拭するためにも、コンスタントに試合出場を重ね、存在感を高めていくこと。それは町田の背番号3に課されたタスクだ。

▽著者:元川悦子
1967年、長野県生まれ。94年からサッカー取材に携わり、ワールドカップは94年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6回連続で現地に赴いた。「足で稼ぐ取材」がモットーで、日本代表は練習からコンスタントに追っている。著書に『U-22』(小学館)、『黄金世代』(スキージャーナル)、「いじらない育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(NHK出版)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)などがある。

(取材・文:元川悦子)

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