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吉田麻也は日本の欠点を補う武器。世界基準の高さと強さ、決定力不足解消の切り札に【西部の目/ロシアW杯】

シリーズ:西部の目 text by 西部謙司 photo by Getty Images

決定力不足解消の切り札

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吉田は攻撃の切り札になりうる【写真:Getty Images】

 相手に引かれてしまうと崩せない、点がとれない。日本代表の欠点だ。引かれてしまえばどんなチームでも攻めにくいものだが、ホームのシンガポール戦でワンサイドゲームをやって1点もとれないこともあった。

 敵陣へボールを運ぶパスワークは問題ない。この点ではワールドカップでも決して低いレベルではない。スペースを消された状態で、最後のところを崩すイメージが足りないだけだ。しかし、行き詰まりを簡単に解消する方法はある。吉田麻也をトップに上げるのだ。

 サイドまで運んでクロスボールを入れるところまではできる。ところが、サイドからのハイクロスでは日本のアタッカーに高さがないためにあまり有効ではない。そのためハイクロスなら入れられる状態でも躊躇して攻め直すことが多くなる。もし、ハイクロスに強いアタッカーがいるなら、攻め直しも難しいパスワークも必要なくなり、シンプルにクロスで勝負できる。セカンドボールからのチャンスも生まれやすい。実際、多くの強豪国も行き詰まればそうしている。

 あのオランダでも、EURO92の準決勝デンマーク戦では後半アタマからフランク・ライカールトをトップに上げて放り込んだ。45分間、攻めあぐねた。だから残りの45分間は攻め方を変えた。それで同点に追いついている(最終的にはPK戦で敗退)。監督はトータルフットボールの生みの親、リヌス・ミケルスだった。

 単純なハイクロス、運だのみの放り込み・・・なぜか日本では評価の低いハイクロスだが、高さと強さのあるFWがいれば攻撃はずっと簡単になる。歴代監督ではイビチャ・オシムが高さのあるFWを重用していた。多彩な攻めも好きだったが、シンプルな攻め手の有効性を軽視していなかった。アルベルト・ザッケローニも本来は高さという解決方法をとりたがるタイプ。2014年ワールドカップでも残り時間がなくなると吉田を上げてのハイクロスは定番だった。

 相手に引かれて崩せる見込みが薄いなら、早いタイミングで吉田をトップに上げるのはアリだと思う。上に蹴っていいなら、日本のSBのクロスの質は悪くない。吉田へ直接、あるいは囮に使って、セカンドボールを拾っての波状攻撃。アイデアがないなら割り切ってシンプルに攻めてもいい。守備の重鎮は攻撃の切り札になりうる。

(文:西部謙司)

【了】

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