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Jリーグ 5年前

川崎F・家長昭博による“無双のシーズン”への分岐点とは? 32歳で頂点に辿り着いた男の軌跡

text by 藤江直人 photo by Getty Images

負傷による出遅れにも焦らず

 当初は1ヵ月と発表された全治までの時間は、最終的には大幅にずれ込んでしまった。ピッチに戻ったのは5月19日の鹿島アントラーズ戦。ただでさえ独特の動きとプレーを要求されるフロンターレのサッカーへの戸惑いを、3ヵ月近くにも及んだ予期せぬ戦線離脱が増幅させていたように映った家長だが、期待されるような結果を残せなかった状況でも自信を失うことはなかった。

「けがで長く試合に出られなかったのは、自分のなかでも大きなロスだったと思っています。ただ、僕自身はそこまでパフォーマンスが低かったとは思っていないし、自分自身に対しては常に自信をもっていた。あとは試合に使われるか、使われないかだけだと自分では思っていました」

 ゆっくりと距離を縮めていった、自信と成長を求める思いが鮮やかにシンクロしたのが、ホームの等々力陸上競技場にアントラーズを迎えた昨年8月13日の明治安田生命J1リーグ第22節だった。家長、そしてフロンターレにとってのターニングポイントは、2点をリードして迎えた72分に訪れた。

 MF大島僚太からパスを受けた家長が、重心の低い、力強いドリブルで前へ進む。右サイドに開いていたFW小林悠とのワンツーを成功させ、ペナルティーエリアの右角あたりに迫った瞬間だった。

「いいボールが返ってきたので、とにかく最後はシュートで終わろうと思って。たまたま入った感じですけど、シュートそのものはイメージしていました」

 強振ではなくソフトタッチ。ライナーではなく緩やかな、それでいてカーブの軌道を描いた絶妙の弾道が利き足の左足のインサイドから放たれる。

 テクニック。長い距離を走ってきてもぶれない脚力。そして、刹那にループ気味のシュートを選択できる、遊び心が満載された状況判断力。すべてがハイレベルで融合されたスーパーゴールが、左ゴールポストをかすめた後にネットを揺らした。

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