カギは「嗅覚」。大久保嘉人はなぜ開幕スタメンに抜てきされたのか? 15年ぶりセレッソ大阪復帰で最高のスタート【コラム】

明治安田生命J1リーグ開幕戦が27日に行われ、セレッソ大阪は柏レイソルに2-0で勝利を収めた。この試合では、15年ぶりにセレッソ復帰を果たしたFW大久保嘉人が先発メンバーに抜てきされた。そして決勝点を挙げる活躍で、J1歴代最多得点記録保持者の復活と健在ぶりを印象づけた。(文:舩木渉)

2021年02月28日(Sun)12時17分配信

text by 舩木渉 photo Getty Images
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15年ぶり復帰、そしてゴール

大久保嘉人
【写真:Getty Images】

 J1歴代最多得点記録が2年ぶりに更新され、「186」となった。

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 今季からセレッソ大阪に加入したFW大久保嘉人が、27日に行われた明治安田生命J1リーグ第1節の柏レイソル戦で決勝点。15年ぶりの古巣復帰を果たした38歳のストライカーは、今季初の公式戦で2-0の勝利に大きく貢献した。

 両者無得点で迎えた42分、敵陣ペナルティエリア内の坂元達裕がボールをキープして右サイドに展開すると、松田陸がワンタッチで鋭いクロスを入れる。その軌道上に大久保が飛び込み、頭で合わせてゴールネットを揺らした。

 味方がボールを動かしている間、大久保は相手センターバックと巧みに駆け引きしていた。そして坂元から松田陸へパスが出たタイミングで動き直し、マークについた選手の視界から離れたうえでニアサイドに力強く飛び込めるようステップを踏んでいた。

「それまでいい形で抜け出したりとか、点が入りそうな感じだったので、その瞬間に(松田)陸からのいいボールが来た。あのボールは陸もマル(丸橋祐介)もかなりうまいので、自分はディフェンスを外していければいいなと思っていた。そこにドンピシャに入りました」

 松田陸が上げたクロスの質を称賛する大久保だが、彼のボールのないところでゴールの可能性を生み出す動き出しの質も見事だった。61分にベンチに下がるまで、背番号20を起点に生まれたチャンスはいくつもあった。

 大久保がJ1で3年連続得点王に輝いたのは、もう6年前のことになる。2016年はリーグ戦で15得点を挙げたが、以降は8点、5点、1点と年を追うごとにゴール数が減少。昨年は東京ヴェルディに移籍して18年ぶりにJ2を戦うことになったが、大久保にとってJリーグでは初めての無得点に終わった。

 故にセレッソ復帰には疑問の声もあった。大久保本人は加入にあたって「自分の選手生活の最後は”セレッソ大阪”でという気持ちで頑張ってきました。そして、その気持ちを理解してくれたクラブに感謝しています」とコメントしたが、戦力として計算できるのか不安視されてもいた。一時は「開幕前に現役引退の可能性も…」といった主旨の報道も出た。

クルピ監督が大久保を抜てきした理由

 だが、J1歴代最多得点記録を持つ男は、結果で自らの価値と実力を示して見せた。キャンプ中は一度も主力組に入っていなかったというが、本人も「驚いた」という抜てきで開幕戦のスタメンに名を連ね、決勝点と一発退場の誘発という大きな成果を残した。

「3日前くらいに(練習で)いきなり先発組に入って、自分でも『まさかね』と驚いた。(ベンチ入りの)メンバーに入ればいいなくらいの感じだったので、驚いたし、『ここでやらないと後がない』という気持ちになりましたね」

 一方、8年ぶりにセレッソの指揮を執るレヴィー・クルピ監督には大久保の起用に対する確信があったようだ。試合後の記者会見では、熟練のストライカーへの厚い信頼を口にした。

「やはり彼の経験だけではなく、今の実力、そのどちらも先発で起用するにふさわしいと感じていた。彼は日本のなかでもしっかりとした実力を示してきた選手であり、リスペクトされている選手なので、今日の試合でも非常に重要な仕事をしてくれたと思うし、シーズンを通して、間違いなく重要な選手になってくると思う。

ブラジルでもストライカーというのはゴールの匂いを嗅ぎ分ける嗅覚、これが何より大事だとよく言われるが、彼はまさしくゴールにつながる嗅覚を持った選手であり、さらに最高のフィニッシュの精度を持った選手だと思う」

 開幕直前まで主力組に入っていなかったとはいえ、「常にチームの中では競争があったわけだが、その競争のなかで彼は少しずつ実力を示してきた。キャリアで残してきた数字が偶然ではないことをしっかりと示すことができたので、今日の先発を勝ち取ったということになると思う」とクルピ監督は語る。

 新エース候補のオーストラリア代表FWアダム・タガートが、新型コロナウイルス感染拡大にともなう政府の入国規制措置の影響でいまだチームに合流できておらず、得点源として信頼の置けるストライカーは豊川雄太くらい。選手層の薄いなかではあるが、大久保がまだ十分に戦えることを示したのはセレッソにとって追い風になるはずだ。

「本当にボールに触れれば、ゴール前でボールが来ればと思っていましたし、周りが何を言おうが(結果を残せば)簡単なので、今日に本当に懸けていたというか。今日は本当に結果を出したいなという気持ちで入りましたね」

次戦、早くも等々力に凱旋

大久保嘉人
【写真:Getty Images】

 桜のユニフォームをまとって長居スタジアムのピッチに立った大久保は、味方がボールを奪った瞬間にはフリーになれるスペースに向かって走り出していて、どんな時でもいい形でパスを受けられる準備を怠らなかった。

 さすがに全盛期ほどのスピードや運動量はなく、守備にもほとんど参加しない。だが、前線でボールを触れば、チャンスメイクにもフィニッシュにも高いクオリティを発揮できることは証明した。

 例えば24分のチャンスの場面では、相手のクリアボールを拾った大久保もシュートを打てそうに見えたが、瞬時の判断でよりゴールの可能性が高い豊川へのパスを選択した。21分には相手ディフェンスラインの背後に抜け出してパスを受けたものの、強引に突破するのではなく、あえてボールキープして味方の攻め上がりを促し、最終的には豊川のシュートにつながった。

 かつての大久保はボールに触れないと中盤まで下がってきてパスを要求し、ゲームメイクからフィニッシュまで全部自分でやってしまう(できてしまう)ような選手だった。だが、年齢を重ねたことで、より前目のポジションでゴールに直結する仕事に注力するスタイルになって、なおかつゴール前で違いを作れる力も維持している。

 まさしくクルピ監督の言う「嗅覚」、ゴールへの正しい道筋を嗅ぎ分ける力は、経験を積み重ねたことで一層磨かれている。そして、チームメイトたちからの信頼も厚いのは、大久保の動き出しに対して何度もいい形でパスが入っていたことからもわかる。ボールのないところでの質の高さを、味方は信じているのだ。

「(自信は)ありますね。みんな意識して見てくれていますし、単純ですけどボールを当ててくれたりとか、それで自分はリズムを作っていけているので、本当にそれはめちゃくちゃやりやすかったです」

 長居スタジアムに戻ってきて、ゴールという形でファン・サポーターに最高の「ただいま」の挨拶をすることができた。次戦はACL出場に伴うJ1第11節の繰り上げ開催となり、3月3日にアウェイで古巣・川崎フロンターレと激突する。大久保は「フロンターレは非常に強い相手なので、古巣ということで、等々力に帰れるのも嬉しいですし、楽しみです」と心を躍らせている。

 大久保は自身の持つJ1通算得点記録を「200」の大台に乗せることができるのだろうか。セレッソにタイトルをもたらすことができるのだろうか。

 15年ぶりの復帰戦であんなにも胸が熱くなるゴールを見せられると、38歳のストライカーが“最後の”挑戦でどんな物語を描いていくのかが楽しみで仕方ない。大久保の「1試合、1試合、1日、1日、覚悟をもって挑んでいきたい」という言葉に込められた覚悟に嘘偽りは一切ない。

(文:舩木渉)

【了】

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