フットボールチャンネル

Jリーグ 8か月前

「99.9%」井手口陽介だからこそできる要求。「不格好でも勝つ」アビスパ福岡の象徴【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

井手口陽介だからこそする長谷部茂利監督の要求



「守備ではボールを取るし、走れるし、スライドしながらボールにチャレンジできますし、アプローチもできます。攻撃では時々、他の選手と変わったプレーもできます。ターンしながらためて、そこからパスを出す。そういう意外なプレーができますけど、今日のところは物足りないですね」

 より高いレベルを求めているからこそ、勝利した直後にあえて厳しい注文を出す。今シーズンから加入した井手口へ全幅の信頼を寄せている指揮官は、さらにこんな言葉を紡いでいる。

「彼はマイボールを取られてはいけないし、常に相手ボールを取らなければいけない。この両方を求めています。申し訳ないんですけども、全員に同じことをオーダーしていません。ただ、彼にはそれぐらいの高いレベルでオーダーしています。自分が中心になって守備も攻撃も発信していってほしい、と。口であれこれ言うタイプではないですけど、スッという感じでためらいもなく気の利いたプレーをするのがすごく得意な選手です。なので、そういうプレーをできるだけ多くチームに提供してほしい。そのように言ってきたからこそ、今日のプレーに関しては少し物足りないかな、と」

 ノーゴールが続いている公式戦での軌跡も、物足りなさの対象に加えられるだろう。

 井手口のゴールで真っ先に思い出されるのが、2017年8月31日のオーストラリア代表戦で決めた代表初ゴールとなる。勝てばロシアワールドカップ出場が決まるアジア最終予選の大一番。日本が1-0とリードして迎えた82分に埼玉スタジアムを震撼させたスーパーゴールが生まれた。

 敵陣の左サイドでパスを受けた井手口が、アジリティーをフル稼働させながらオーストラリアの大男たちを次々と翻弄する。中へ、中へと切れ込んでいった次の瞬間に右足を一閃。ペナルティーエリアの外から強烈な一撃を相手ゴールの右隅へ突き刺し、日本の勝利を決定づけた伝説のゴールだ。

 底知れぬ才能を当時のヴァイッド・ハリルホジッチ監督に見初められた井手口は、オーストラリア戦が出場わずか3試合目だった。自他ともに認めるシャイな性格で、極度の人見知りとして知られ、口下手でもある井手口が、オーストラリア戦後の取材エリアで必死に言葉を紡いでいたのを思い出す。

「ゴールの枠に入ればいいかな、と思って蹴りました。それで上手く力が抜けていたんじゃないかと思います。すごく嬉しかったですけど、すぐに頭のなかが真っ白になっていたというか」

1 2 3 4 5 6

KANZENからのお知らせ

scroll top