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Jリーグ 7か月前

「賭けに勝った」町田ゼルビアが乗り越えた3つの節目。「出過ぎた杭」が貫いた姿勢とは【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

不安と背中合わせの1年



「私の采配を不安視する声も多かったし、高校サッカーとプロは違うという声も数多く聞きました。紛れもなくその通りであり、誰よりも私自身が不安と背中合わせの挑戦でした。負けず嫌いの性格もあって『必ずやれる』と信じてはいながらも、怪我人が相次ぎ、あるいは代表に招集されて思うようなメンバーが組めない時期もあったし、自分の思うような采配を振るえなかった時期もあったので」

 昨シーズンの町田は14勝9分19敗、勝ち点51の15位に低迷した。特に最後の10戦で白星なしの2分8敗とどん底状態に陥り、序盤は最高で2位につけるなど、J1昇格圏内につけていた順位もみるみるうちに後退。第38節以降を5連敗で終えた翌日に、黒田新監督の就任が発表された。

 奇異な視線を向けられがちだった新体制は、39試合を終えて23勝9分7敗をマーク。総得点73はリーグ最多で、総失点34は清水エスパルスとヴェルディの30に次いで3番目に少ない。攻守が完璧なハーモニーを奏でながら、第10節からは一度も首位の座を譲らずに悲願のJ1昇格を成就させた。

 連敗だけでなく、同じ相手に2度負けたケースもない。ほぼ完璧に映った今シーズンの軌跡には、しかし、昇格を勝ち取る上でのターニングポイントがあった。それも2度。黒田監督が明かした最初のそれは、ホームの町田GIONスタジアムにモンテディオ山形を迎えた8月26日の第32節だった。

 清水との前節で、町田は2点を先制しながら3連続失点を喫してシーズン5敗目を喫していた。しかも、チームだけでなくリーグでも最多の18ゴールをあげていた、エースストライカーのエリキが37分に負傷退場。左膝の前十字じん帯断裂、外側半月板損傷、内側側副じん帯損傷で全治約8カ月と診断され、シーズン中の復帰が絶望となった直後の山形戦で、町田は5-0の大勝を収めている。

 山形がなぜターニングポイントになったのか。黒田監督が静かに言葉を紡いだ。

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