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Jリーグ 7か月前

「賭けに勝った」町田ゼルビアが乗り越えた3つの節目。「出過ぎた杭」が貫いた姿勢とは【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

「定着や安定がチームの成長を妨げる」



「われわれのやりたいサッカーではまったくなかった。それでも相手の土俵にあえて立ち向かい、あのような(防戦一方の)サッカーをしながらでも勝ちに持っていき、さらに貯金を積み重ねられたことが今回の熊本戦にもつながった。強いて言えば、ターニングポイントはこの2試合かなと」

 山形戦は怪我をした選手、秋田戦では代表に招集された選手の不在を乗り越えて、前者は連敗を、後者では同一カード連敗をそれぞれ回避した。さらに2つの試合には共通点もある。主力やレギュラーに位置づけられる選手に代わり、出場機会が少なかった選手たちを中心に勝利をもぎ取った点だ。

「1年間を通じて、定着や安定といったものが逆にチームの成長を妨げる、と自覚していました」

 開幕からメンバーをほぼ固定して戦ってきた黒田監督は快進撃を続けながらも、怪我などを含めた不測の事態が必ず起こると先を見すえていた。同時進行で日々徹底してきたチームマネジメントを振り返りながら、代わりに出た選手たちの活躍は偶然ではないと熊本戦後に力を込めた。

「もちろん(試合に出られなくて)くすぶっていた時期もあると思うんですけれども、そのなかで他のメンバーを見ているコーチ陣から、彼らが練習でどのような取り組みをしていたのか、といった情報をしっかりと得ながら、相乗効果を図るために常に競争意識を持たせてきました。そうした(出番の少ない)選手たちが期待に応えてくれたことが、この1年間を通じたいい循環につながったと思っています」

 選手層の厚さを物語るように、熊本戦を終えた段階で10試合以上に出場した選手が23人を数えている。JFA・Jリーグ特別指定選手として山梨学院大在学中の昨シーズンも在籍し、今シーズンから正式に加入したルーキーの平河を含めて、そのうち17人を今シーズンの新加入選手が占めていた。

 特に横浜F・マリノス時代にJ1リーグ戦で41試合に出場して、21ゴールをあげた実績を持つブラジル出身のFWエリキ、そしてカタールW杯でゴールを決めたデュークのダブル獲得には、他のJ2クラブからやっかみにも近い声が上がったほどだ。

 シーズンが開幕してからも藤尾とMF松井蓮之が期限付き移籍で、MFバスケス・バイロンとDF鈴木準弥、DF松本大輔、そしてエリキ離脱後にはFWアデミウソンが完全移籍でそれぞれ加入した。

 J2クラブでは前例がないと言っていい大型補強。すべてはメインスポンサーのサイバーエージェントのトップとして、練習場やクラブハウスなど町田に足りなかったハード面を次々と整備し、今シーズンからは肩書きを町田のオーナーから代表取締役社長へと変えた藤田晋氏の意向だった。

 黒田監督を招聘した昨秋。同じく新任の原靖フットボールダイレクターも交えた話し合いの末に得たコンセンサスを、藤田社長は熊本戦後に次のように明かしている。

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