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Jリーグ 6か月前

響いた声。湘南ベルマーレは緊急事態をどう乗り越えたのか。監督の覚悟と主将の心中【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

湘南ベルマーレを襲った緊急事態



 予期せぬアクシデントが起こったのは90分だった。神戸が獲得した右コーナーキックを、左利きのボランチ扇原貴宏が蹴る。インスイングで放たれたボールのターゲットはファーサイド。湘南の守護神、富居大樹がポジションを移しながら、必死に伸ばした左手でパンチングに逃れた。

 しかし、ファーサイドにいた神戸のDF山川哲史、さらに味方の選手と激しく交錯。ピッチに倒れ込むもまだインプレー中とあって、富居はすぐに立ち上がった。しかし、この時点で激痛を覚えていたのだろう。富居は背中、右腰のあたりを何度も押さえて懸命にポジションへ戻っていった。

 そして、武藤が放ったヘディングシュートがクロスバーを越えたのを見届けると、同じ箇所を再び押さえながらピッチに崩れ落ちた。湘南のベンチから、ドクターとアスレティックトレーナーが慌ててゴール前へ駆けつける。しかし、仰向けになった富居は自ら両手を交差させていた。

 プレー続行不可能を告げるサイン。しかし、湘南はすでに5つの交代枠を使い切っていた。控えキーパーの馬渡洋樹がアップを開始するも、富居が脳しんとうを起こしていない限り、特例での交代は認められない。つまり、フィールドプレイヤーの誰かがキーパーとしてプレーしなければいけない。

 治療を受ける富居を見守りながら、大岩とDF石原広教が言葉を交わしていた。実は石原はゴールキーパーとして、下部組織の湘南ベルマーレジュニアに加入した経緯があった。しかし、思うほどに身長が伸びなかった影響もあり、中学生年代のジュニアユースにはディフェンダーとして加入していた。

 緊迫感が漂うなかで大岩と交わした言葉を、身長169cmの石原が苦笑いしながら明かした。

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