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Jリーグ 6か月前

響いた声。湘南ベルマーレは緊急事態をどう乗り越えたのか。監督の覚悟と主将の心中【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

34歳同士で受け継がれたバトン

湘南ベルマーレ山口智監督とGK富居大樹

【写真:Getty Images】



「ワンバウンドしたときに、思っていたよりもボールが止まってしまった。そのタイミングで佐々木選手が走って来るのが見えて、ちょっと焦ってしまった」

 キッカーは言うまでもなく大迫。ゴール右隅へ突き刺された強烈な弾道に、コースを読み切って反応した富居もさすがに届かなかった。逆転勝利を目指して、神戸はさらに圧力を強めてきた。

 例えば82分。大迫の縦パスが相手に当たり、ゴール前へ走り込むFWジェアン・パトリッキへの絶妙なパスに変わった。対応した大野も、加速するパトリッキに追いつけない。絶体絶命のピンチでパトリッキの右足から放たれたシュートを、右足一本で弾き返したのが富居だった。

 最後尾のゴールマウスで代役の効かない存在感を放っていた守護神が、無念の負傷退場を余儀なくされた。それでも時間は巻き戻せない。スタジアムに響く「トミイ、トミイ」が「オオイワ、オオイワ」へと変わったなかで、大岩は同じ1989年生まれの富居へ、あらためて畏敬の念を抱いていた。

「試合中から何度もトミに助けられていたし、実際にキーパーをやってみてあらためて『トミってすごいな』と思っていました。僕自身は怖いというか不安だったし、とにかくシュートを打つのだけはやめてくれ、と。でも、チームのみんながシュートを打たせないような守備をしてくれました」

 相手の弱点を突くのが勝負の鉄則とばかりに、神戸も左右から6本ものクロスを放り込んできた。しかし、システムが[4-4-1]に変更されたなかで、9人のフィールドプレイヤーが必死にはね返す。3本目のクロスのこぼれ球を大迫につながれた98分は、3人がかりでシュートを打たせなかった。

 そして、冒頭で記したように、5本目のクロスを大岩がしっかりとキャッチ。MF新井瑞希が左サイドから放った6本目のクロスが逆サイドのDF初瀬亮に合わず、ゴールラインを割った直後にドローを告げるホイッスルが鳴り響いた。表示されたアディショナルタイムは4分。しかし、富居の治療で時間を要した後に再開された関係で、終わったときには時計の針は99分を回っていた。

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