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Jリーグ 6か月前

「あの決断を正解にできた」アビスパ福岡、背番号6が明かす指揮官への本音とは【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

先制ゴールの知られざる舞台裏と勝負師のルーツ

アビスパ福岡MF前寛之とFW山岸祐也
【写真:Getty Images】



「あれ、浦和対策で今週1週間ずっと取り組んできたプレーなんですよ」

 残り3試合となったJ1リーグ戦で、浦和は最小の22失点と堅守を誇る。原動力は身長189cm体重84kgのアレクサンダー・ショルツと、185cm77kgのマリウス・ホイブラーデンの両センターバック。強さと高さを兼ね備える最強コンビに、空中戦で真っ向勝負を挑むのはあまりにも分が悪すぎる。

 ならばと、左右からのグラウンダーのクロスを浦和対策として徹底させた。先制点の場面では酒井だけでなく、ショルツもホイブラーデンも紺野の動きに気を取られてボールウォッチャーになり、前の侵入に気がつかなかった。完璧な展開の末に奪った先制点に、山岸がさらに声を弾ませた。

「ヒロ(前)がシャドーで先発するのはいままでになかった形ですけど、そのヒロが先制点を決めちゃうんですからね。シゲさんはそれ(先制点)を引き寄せる勝負師でもあるんですよね」

 山岸だけでなく、選手全員が親しみを込めて「シゲさん」と呼ぶ長谷部監督が指揮を執って4シーズン目。そのなかで前との師弟関係は、J2の水戸ホーリーホック時代を含めて6年目を迎えている。

 札幌市で生まれ育った前は、小学生年代から北海道コンサドーレ札幌のアカデミーに所属。2014シーズンにトップチーム昇格を果たすもなかなか出場機会を得られない。札幌がJ1を戦った2017シーズンのリーグ戦出場はわずか4試合。迎えたオフに前は大きな決断を下している。

 出場機会を求めて期限付き移籍した水戸を、2018シーズンから率いたのが長谷部監督だった。

 長谷部監督は桐蔭学園高から中央大をへて、黄金時代を迎えていたヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)で1994シーズンにプロデビュー。川崎フロンターレとヴィッセル神戸をへて、名将イビチャ・オシム監督(故人)に率いられたジェフ市原(現ジェフ千葉)でもプレーした。

 2003年夏に千葉を退団した後は、2006年から古巣・神戸で指導者の道を歩み始める。アカデミーやトップチームのコーチを歴任し、さらに千葉のトップチームコーチや監督代行を務めた後の2018シーズンから指揮を託された水戸で、攻守を司るボランチに札幌から新加入した前をすえた。

 骨折で出遅れながらも、2018シーズンは自己最多の30試合に出場。オフには複数のクラブから獲得オファーを受けたなかで、水戸への完全移籍に切り替えて残留した。長谷部監督のもとでのプレーを選択した前は、続く2019シーズンは39試合に出場して自己最多の5ゴールをあげた。

 同シーズンの水戸はクラブ史上で最高の7位に躍進。最終節までJ1参入プレーオフ進出の可能性を残すなど、それまでJ2の中位に甘んじていた水戸を変貌させた手腕を見込まれた長谷部監督は福岡の指揮官に就任。そして当時24歳の前にも、大きなターニングポイントが訪れた。

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