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Jリーグ 5か月前

「2位は記憶に残らない」川崎フロンターレが譲らなかったもの。自分たちのスタイルを捨てて掴んだ天皇杯優勝の価値【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

タイトルを手繰り寄せた守護神の駆け引き


「僕が最初に、こちらから見て右隅へ蹴って成功させたじゃないですか。同じゴールキーパーならば心理的にも、同じようなコースには蹴ってこないだろう、というイメージがありました。もちろん自分と同じインサイドキックでも蹴ってこないだろう、と。そのように考えていました」

 とっさに立てた仮説を具現化させるために、ソンリョンは巧妙な罠も仕掛けている。

「さらに一度左へフェイントを入れて、タイミングを合わせてから右へ飛びました」

 松本がキックモーションに入った刹那に、ソンリョンは自身から見て左側へわずかながら重心を傾けた。当然ながら松本の視界にも入る。松本が蹴ってくるコースをほぼ完璧に限定した上で、満を持して逆方向へ飛んだ。ボールを両手で弾き返した瞬間に、川崎の3大会ぶり2度目の優勝が決まった。

 120分間で放たれたシュート数が、川崎の7本に対して柏が3倍近い19本。川崎の最大にして唯一の決定機は、延長後半13分に途中出場のゴミスが放ったヘディングシュート。それも松本のビッグセーブに阻まれた展開を、鬼木監督は「終始、柏のペースだった」と素直に振り返っている。

 それはJ1リーグで一度も優勝争いに絡めないまま8位に甘んじ、YBCルヴァンカップでもグループリーグ3位で敗退した今シーズンの苦しい戦いと重複するような120分間でもあった。

「最後まで自分たちの形でサッカーができなかった。そのなかで選手たちには、120分間だけでなくPK戦も覚悟しておこうとミーティングで話していた。PK戦になっても、最後は気持ちが大事だよ、と。実際にはそのようにならない展開がよかったけど、そうしたものを体現し続けてくれて、最後は勝利を持ってきてくれた結果に対しては、本当に選手たちとファン・サポーターの応援に感謝している」

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