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Jリーグ 5か月前

「2位は記憶に残らない」川崎フロンターレが譲らなかったもの。自分たちのスタイルを捨てて掴んだ天皇杯優勝の価値【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

復権を予感させる川崎フロンターレの執念


「どんな形でもタイトルは取り続けていかないと、タイトルを取れない状況にみんなが慣れてしまう。そのなかでとにかくタイトルを取ることで、言葉ではなかなか説明できない、タイトルを取るときの空気感といったものを選手たちには味わってほしかったし、さらに次の世代にも伝えていってほしいと思っていた。その意味でも、今回タイトルを取れたことは非常に喜ばしいと思っています」

 優勝を決めた後のピッチで、今シーズンからキャプテンを務めるMF橘田健人が、昨シーズンから中村憲剛の「14番」を志願して引き継いだMF脇坂泰斗が、昨年のカタール・ワールドカップ日本代表のDF山根視来らが泣いていた。そして、鬼木監督の目にも光るものがあった。

「本当に苦しかったシーズンで、実際にJ1リーグもああいう形なった。決勝戦も終始、相手のペースだったし、PKを含めて、絶体絶命のピンチが何回もあった。でも、選手たちはそこを気持ちで乗り越えてくれた。本当に目に見えない部分での最後の頑張り、といったものに感動したというか、選手たちのさまざまな苦しみが報われた瞬間なのかなと。そういう思いもあって、少し涙が出てしまいました」

 ちょっぴり照れくさそうに指揮官が涙の意味を説明すれば、川崎が獲得したすべてのタイトルを知るだけでなく、城南一和天馬(現城南FC)時代にはACLを制した経験を持つソンリョンも続いた。

「ここまで来れば2位のチームは記憶に残らないし、優勝できなければ絶対に後悔する。それは自分の経験からもわかっていた。3年前は(準決勝から登場して)2回勝っての優勝で、ちょっと微妙な感じがあったけど、2回戦から勝ち上がった今回はまた違った嬉しさがこみ上げてきている」

 120分間を通じた試合内容だけを見れば、勝利にふさわしかったのは柏の方だったかもしれない。それでも、肉を切らせて骨を断つ、とばかりに川崎は最後の一線だけは絶対に譲らず、何がなんでも、という執念をむき出しにしながら経験をフル稼働させて、直近の7シーズンで7個目のタイトルをクラブの歴史に加えた。来シーズンのユニフォームに添えられる7個目の星が、川崎の復権を予感させる。

(取材・文:藤江直人)

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