フットボールチャンネル

人体の弱点をつく。風間理論による解決策。身体能力に左右されずゴールを奪う方法

text by 西部謙司 photo by Getty Images

人体の弱点をつく。「攻撃では敵を見ろ」

 ただ、そこを守る人数も多い。サイドの18.5メートルの門番はたいがい1人だが、正面の44.8メートルは4~5人で固められている。単純に4分割しても1人が11.2メートルを守っているわけで、これだけなら正面の間口がサイドより広いとはいえない。

 だが、もしそこを通過できるのなら、ペナルティーエリア内のゴールエリア幅に人とボールを送り込むには最短距離になる。正面のラインを通過してしまえば、ほぼゴールデンエリアに入れている。風間監督は、そのためのスペースも十分あるという。

 この場合のスペースとは、何メートルという単純な長さや広さではなく、1個のボールと1人の選手を通過させる空間があるかないか。「外す」技術があれば、場合によって1、2メートルの幅でも通過できないことはないという。だから44.8メートルなら十分な間口の広さと捉えているのだ。

 風間監督の言う「外す」は、人体の弱点をつくことで成立している。

 例えば、右方向へ動いている選手は左方向へは動けない。バカバカしいぐらい当たり前の話だが、DFが右方向へ動いた瞬間にFWが逆の左へ動き出していれば、そしてその瞬間にボールがFWに届いていれば、DFはFWの突破を阻止できない。DFが動き直して守備に入る前に、FWはペナルティーエリア正面のラインを通過している。

 マークを外したその瞬間にボールが届いてさえいれば、FWとDFの間隔は1メートルでもペナルティーエリア正面のラインを通過できることになる。外した瞬間にパスを受け、44.8メートルのどこかを通過してしまえば、もうそこはゴールデンエリアだ。最もシュートの決まる確率の高い場所に人とボールを送り込んだことになる。

「外す」を成立させるためには、パスのタイミングが重要だ。受け手がDFの守れない場所に移動した瞬間、ボールが届いていること。早すぎても遅すぎても成立しない。

 ボールの移動時間があるので、パスの出し手はむしろ受け手が外しきるより早く、つまり外しにかかっているタイミングでボールをリリースする必要も出てくる。

「攻撃では敵を見ろ」(風間監督)

 味方の動きを見てからでは、パスのタイミングが遅れるからだ。DFが動いた瞬間こそがパスのタイミングで、DFを外した味方が移動する場所を予測してそこへ蹴る。DFは動いていれば守れない場所ができている。人体はそうなっているからだが、その守れない場所をパスの出し手と受け手が共有していることが第一。第二にタイミングを逃さないこと。場所とタイミングの一致に「外す」の成功はかかっているわけだ。

1 2 3 4 5

KANZENからのお知らせ

scroll top