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Jリーグ 3か月前

無給、メールで逆オファー…。ファンウェルメスケルケン際がゼロから築いたキャリア「逃げることを意味する」の真意【コラム】

シリーズ:コラム text by 藤江直人 photo by Getty Images

文武両道の18歳が下した大きな決断



「デビュー戦が国立競技場でタイトルがかかっている状況というのは、たぶん周囲を見渡してみてもほぼ起き得ないことだと思っています。そのなかで家族を含めて、いろいろな方が見に来てくれていたので、その前でゴールを含めて、タイトルを獲れたことを本当に嬉しく思っています」

 際のルーツはオランダの南東部、ドイツ及びベルギーの国境に近いマーストリヒトという街にある。1994年6月28日にオランダ人の父と日本人の母との間に生まれ、2歳のときに一家で日本へ移った。

 八ヶ岳フットボール(現ヴァンフォーレ八ヶ岳)でサッカーを始めたのは8歳のとき。2008年からはヴァンフォーレ甲府の下部組織に加入し、一方で県内有数の進学校である中高一貫の北杜市立甲陵に入学。往復で約3時間をかけて甲府の練習に通いながら、文武両道を極めようと励み続けた。

 当然ながら、帰宅するのは深夜となる。国立大学への進学を目指して、受験勉強にも熱が入っていた高校3年生のある日。胸中に抱き続けてきたもうひとつの夢が、ひときわ大きく膨らんだと際は語ったことがある。夢とは日本ではなく父の母国オランダで、プロサッカー選手になることだった。

「オランダの国籍も持っている自分が、いまオランダへ行かなければ一生チャレンジできないと思ったんですね。オランダへ行かないということは、イコール、自分にとって『逃げる』ことを意味していました。一度しかない人生で、そういうことは絶対にしたくないと思っていたので」

 高校卒業後に海を渡りたいと際は思いの丈を伝えた。その後のやり取りをこう明かしている。

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